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Q1「親業という言葉は、最近マスコミ等でも知られてきたようですが、まだまだご存じない方も多いと思います。一言でいうと、どういうものなのでしょうか」

A1「一言でいうのは難しいのですが、主として親子を基本にしたコミュニケーションの基礎的訓練です。それも、非常に具体的でわかりやすく効果的なので、お話を聞いた方が家に帰ってすぐから試すことのできる、そんな方法なのです」

Q2「いつ頃から、どんな形で始まったのですか」

A2「アメリカの臨床心理学者トマス・ゴードン博士によって、1962年カルフォルニアで17名の親を対象に、講座という形で始められました。

 当時のアメリカでは、両親そろった経済的にも豊かな中流家庭から非行に走る子供達がでてくるようになって、いわば『理由なき反抗』が社会問題になり始めていました。ゴードン博士はそういう子ども達を立ち直らせる仕事に携わっておられましたが、子ども達がよくなったと思って家庭に戻すと、また問題を起こしてしまう。そんなことの繰り返しの中で、子どもだけを相手にしていたのでは不十分だ、親を教育する必要がある、との実感を深められ、親に対する直接的な教育訓練の働きかけを始められたわけです。

   それが、この『親が親としての役割を効果的に果たすための訓練』、アメリカではPET Parent Effectiveness Trainingといっていますが、という講座なのです」

 

Q3「どういう理論が土台になっているんでしょうか」

A3「皆さんは非指示的カウンセリングとか、来談者中心療法などで知られる臨床心理学の祖ともいうべきカール・ロジャースという方をご存じだと思いますが、ゴードン博士はこのロジャース博士のお弟子さんなんです。

親業は、そういう臨床心理学や発達心理学、教育学など、いわゆる行動科学の研究成果を基礎にしています。

 その上で、特別の教育や知識をもたない、どんな親でも身につけることができるように、わかりやすく工夫されているのです」

 

Q4「日本では、どんなふうに始まったのですか」

A4「親業訓練協会の理事長だった近藤千恵が、1977年にこの本を紹介し『親業』と翻訳しました。この邦訳が出版されると、問い合わせが殺到し、それに押されるようにして、親業訓練協会が設立されました。1980年のことです。

  派手な宣伝はいっさいしておりませんので、草の根的に広がってきました。現在(2020年)400名以上のインストラクターがおり、13万名以上の方が受講されています」

 

Q5「どのような人が受講しているのですか。なにか問題をかかえた親が勉強をするものなのでしょうか」

A5「親子関係に現実に問題があるという人は全体の20%で、大部分は特に問題はないけれど、『よりよい親子関係を求めて』受講されています。問題が起こる前に学ぶ、いわば、予防医療的役割を果たしているのです。

今までの参加者は30代から50代にかけての人が多いのですが、中学生から80代のご年配の方まで、幅広い層が受講しています。最近は男性の受講生も増えていますね」

 

Q6「そんなに幅広い層が受講しているということは、親子の問題以外にも、例えば学校や会社などの人間関係についても、参考になるということですか」

A6「もちろんです。このコミュニケーションは親子だけでなく、すべての人間関係に有効なものですから、先生と生徒の間では『教師学』として、医療現場では『看護ふれあい学』として、また上司と部下、夫と妻など様々な人間関係の間に応用できる『自己実現のための人間関係講座』として、現在広がってきています。」

 

Q7「それでは、親業訓練講座の中身について、簡単に教えて下さい」

A7「親業訓練講座は1週間に1回、3時間の講座8回計24時間のプログラムになりますが、そこには3つの柱があります。

『子どもの気持ちを受け止める』『親の気持ちを上手に伝える』『親子の対立を解決する』の3つです。

それぞれについてロールプレーなどを交えて親になったり、子供になったりしながら、体験学習をしていきます。この『体験学習』というところに、親業訓練の大きな特色があると思います。」

 

Q8「インストラクターご自身は、親業訓練が子育ての際に役立ったことなど、おありでしたか」

A8「いろいろあります。いつも上手に使いこなしてきた、とはとてもいえないんですけれど、大事な節々で子ども達が道を踏み外さないで育ってくれたのは、この親業のおかげだと思っています。

現在では、二人の子どももそれぞれに家庭を持ち、6人の孫に恵まれています。

また、役に立ったなあ、と思っているのは、母に対してです。私の父がなくなったとき、とても仲のよかった夫婦だけに、母の喪失感はとても深いものがありました。この親業を知らなかったら、一生懸命励ましたり、慰めたりして、『元気だすのよ』とか『しっかりしなきゃダメでしょ』なんていって、母の思いとはズレた対応をしていたのではないかと思っています。相手が本当に辛い時には、慰めや励ましも『わかってもらえない』という気持ちを持たせてしまうんですね。親業の『相手の思いをありのまま受け止める方法』が役に立ちました。

現在では、認知症の姑との関係にも役立っています。

 

Q9「親から子へのコミュニケーションだけではなく、子から親へのコミュニケーションにも活用できるのですね」

A9「そうなのです。子育てが一段落なさった方でも、親の介護の問題、嫁姑の問題、そんな色々な場面で活用できる方法なのです。」

 

Q10「要するに、様々な人間関係におけるコミュニケーション技術の習得、ということになるのでしょうか」

A10「無論それもありますが、実は親業の学習は、それにとどまらないのです。

 『いかに』コミュニケートするか、を学ぶと同時に、『なにを』コミュニケートしたいのか、が最終的に問われてきます。自分は何を大事に思い、何に価値を置き、何を幸せと感じる人間なのか、ということですね。『親業』は『自分業』だとよくいわれるのはそのためです」

 

Q11「単なる『ハウツウもの』ではなくて、具体的な方法から入り、結局は各人の生きる姿勢にまで及ぶ親のための学習ということですね」

A11「そのとおりです。過保護や過干渉でなく、かといって放任でもない、子どもの自立を見守る親として姿勢や心を学ぶと同時に、親自身の生き方を見直すことができるのです」

 

Q12「親業について、もっと知りたい、講座を受講したい、という場合はどうしたらいいのですか」

A12「インストラクターにご連絡下されば、資料や講座日程をお知らせします。

 または、親業訓練協会までご連絡下さい。

TEL03(6455)0321/

FAX03(6455)0323です。

http://www.oyagyo.or.jp

いろいろ出版されている関連図書や、近々開催される講座、講演会等についても紹介してくれます」

 

〔豊島テレビ 竹ノ谷氏作成のインタビュー質問と

   久保 まゆみインストラクターの回答を土台として〕

 

                    1999年初版

                    2020年改訂

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